看護学科

2024年 1月号

不妊夫婦の意思決定支援
養子縁組養親の役割獲得支援
 ー研究者紹介ー

健康科学部 看護学科 渡邊 実香 教授

専門分野

母性看護学 生殖看護学

研究テーマ

不妊夫婦の意思決定支援、養子縁組養親の役割獲得支援

【動画】


Q. 研究内容について教えてください。

不妊夫婦の意思決定支援:不妊治療を受ける夫婦に焦点を当て、適切な意思決定を支援する方法と内容を探求します。
生殖医療技術の選択、保険制度を利用するかどうか、医療機関の選択など、夫婦は子どもを持つために様々な要因に対してその都度選択する場面に直面し、多大な心理ストレスにみまわれます。情報提供やカウンセリングを通じて夫婦の意思決定をサポートし、心理的負担を軽減することをめざします。結果的に、夫婦の不安を減らし、自分らしく生活できる手助けをします。
養子縁組養親の役割獲得支援:不妊期間を経て養子縁組を選択した夫婦に焦点を当て、親役割を獲得するために必要な支援方法を探求します。
養親は血縁関係のない新しい家族を形成し、子どもの健全な成長に重要な役割を果たします。養親のニーズは育児スキル向上、愛着形成のためのコミュニケーション、心理的側面など多様です。カウンセリングや教育プログラムを通じて養親の役割獲得を促進し、安定した家庭環境作りをサポートします。養親と子どもの絆を強め、安定した養子縁組家族の形成をめざします。

Q. 研究を始めたきっかけを教えてください。

総合病院で助産師として働く経験から、妊娠・出産をする夫婦には充実したサポートがある一方で、不妊治療を受ける夫婦にはほとんどサポートがないことに気づきました。また、不妊治療で子どもを持つことができなかった夫婦の中には、養子縁組で子どもを育てる選択をする方もいることを知りました。
このような背景から、不妊治療を受ける夫婦と養子縁組養親の両者に対して、共通する重要な人生の選択に対するサポートの必要性を感じました。
不妊治療を受ける夫婦は、子どもを持つ夢を追いながらも治療過程で多くの選択に迷い、心理的負担を抱えています。養子縁組を選択した夫婦も、子どもを持つ喜びの一方、血縁関係のない子育てには多くの苦労が伴うことも知りました。そういった方が相談相手が少ないことで孤立感を抱えている一方で、専門知識を持つ専門家が少なく不安を解消することが難しいと感じました。このような状況に対して、情報提供やカウンセリングを通じて専門的なサポートを提供することで、不安を減らし安心した暮らしを築く手助けができるのではないかと考えたことがきっかけです。

Q. その研究が『未来にどう生かされてほしいか』を教えてください。

不妊に悩む夫婦は6組に一組ともいわれ、多くの人が直面する健康問題です。
身近な健康問題だと社会が認識し、もし不妊治療を受けるようになった際、迷うことがあったときに広く相談でき、選択が容易になる社会が望まれます。
情報提供やカウンセリングを通じて夫婦の意思決定をサポートし、心理的負担を軽減する仕組みが整うことで不妊夫婦がより適切な選択を行い、不安が少ない治療経過を過ごすことができるでしょう。
一方、養子縁組養親には一般的な親と同様の社会的資源が提供されていないことが課題です。養親が必要と感じるサポートが具体的に示され、親として必要な支援が養子縁組養親にも提供される社会をめざすことが重要です。育児スキル向上や愛着形成のコミュニケーションに関する教育プログラムやカウンセリングが提供されることで養親の役割獲得を促進し、安定した家庭環境を形成する支援が充実すれば、養子縁組養親と子どもの絆が強化され、子どもの健康的な育ちを保証し幸せな養子縁組家族が増えることにつながります。
これらの取り組みにより不妊夫婦や養子縁組養親の支援体制が向上し、健康問題である不妊への理解と社会的なサポートが拡大される社会が実現されることを願っています。

高校生へメッセージをお願いします

医療や看護は人が幸せになるために重要なもの。不妊治療や養子縁組には困難があるけれど、看護の力はそうした人々の幸せを支え、自分自身も充実した人生を送れる仕事です。

プロフィール

健康科学部 看護学科 渡邊 実香 教授


助産師資格取得後、総合病院、一般産婦人科で勤務。大学院進学後、不妊夫婦と養子縁組に関する研究を始め、大学教員として看護師・助産師教育に従事。
不妊カウンセラーとして行政機関で相談員を担い、里親サポーターとして里親活動を支援し、医療従事者に里親制度に関する啓発活動も行う。