理論を知り、技術を身につけ、実習で実践する
看護学科での学び方
(在宅看護)
看護学科では、成人・老年・小児など分野に分けて、「概論 → 援助論 → 実習」の流れで学びを積み上げていきます。今回は、在宅看護の分野に関して、「在宅看護学概論」「在宅看護援助論Ⅰ」「在宅看護援助論Ⅱ」の授業をピックアップ。「概論」の授業で理論を知り、「援助論」の授業で理論に基づいた技術を身につけ、その後訪問看護ステーション等で実習し、療養者の方に看護を実践するまでの、一連の流れをご紹介します。
「概論 → 援助論 → 実習」で学びを積み上げる
2年後期「在宅看護学概論」
2年後期の「在宅看護学概論」の授業から、在宅看護に関する専門的な学びが始まります。この授業では、在宅看護の歴史や、在宅看護が必要とされる社会的背景や在宅看護を支えるための法制度を学んだうえで、在宅看護の目的や、在宅で過ごす療養者※とその家族を理解するための知識をつけていきます。※在宅看護の対象者は、患者ではなく療養者と呼びます。
今回見学した授業では、在宅看護の療養者の家族を支援するために、家族を理解する手法について学びました。一言に「家族」といっても、その定義は人それぞれ。実際に授業中に実施した、スマートフォンを使った学生アンケートでも、同居の血縁者のみを家族ととらえる学生もいれば、離れた場所に住んでいるきょうだいなども家族と考える学生、ペットも家族の一員だと考える学生などさまざまであることがわかりました。同じように、在宅看護の対象者やその家族も、さまざまな価値観を持っているのです。在宅看護の場では、自分の価値観にとらわれることなく対象者の家族を客観視し、それぞれのケースに合わせた家族支援を行うスキルが求められます。
授業では、家族を理解するうえで大切なツールとして「ジェノグラム」と「エコマップ」が取り上げられました。ジェノグラムは家族間の関係(親しいのかストレスを感じているのかなど)を図式化し、エコマップは家族とその周りのサポート資源を図式化します。いずれも家族の情報を整理でき、療養者とその家族の状況をアセスメントするために有効です。学生たちは、国民的アニメの家族のジェノグラムと、ある在宅看護のケースのエコマップを作成し、それぞれの特徴を学びました。
3年前期「在宅看護援助論Ⅰ」
この授業では、2年生の「在宅看護学概論」で学んだことを基に、在宅看護を受ける療養者と、療養者を支える家族についての理解を深めます。また、自宅で療養生活を送るための生活援助技術・医療技術の基本を講義や演習を通して修得します。
写真はある日の授業のようすです。この日は医療機器を扱う業者の方が来校し、在宅看護で使用することの多いさまざまな医療機器のデモンストレーションを行ってくださいました。学生たちは、各機器の機能や、在宅看護で使用する際の注意点などを聞きながら、実際に体験しました。
コロナ禍で簡単に見学等に出向くことができない中での貴重な機会となりました。療養者がQOL(生活の質)を保ちながら居宅でケアを受けられる在宅看護。その中で行われる治療法とそれを支える医療機器について、理解を深めることができました。
初めに、在宅看護の場でどのような機器を用いてどのような治療法が行われるのか、説明を受けました。
マスクを通して酸素を肺に送り込む機器です。実際にマスクを装着し、マスクのフィッテイングが重要なことを実感。普段の呼吸の仕組みと違った酸素の取り込みの感触に驚く学生も。
車椅子や歩行器の体験ゾーン。在宅看護の場となる自宅は、病院とは違い十分な広さの通路が確保されているわけではありません。そんな時に活躍する、真横に動かせる車椅子もあります。
そのほかにも、がん療養者などが自宅で鎮痛剤を投与する「自己調節鎮痛法」に使用するポンプ、消化管の機能に問題がある療養者に直接栄養を入れる「在宅中心静脈栄養法」のための機器などを見学・体験しました。
また、別の日の授業では、精神疾患をかかえた在宅療養者の看護を学ぶために、名古屋の訪問看護ステーションにて実際に精神疾患のある療養者を看護している看護師の方を講師としてお招きしました。
精神疾患の患者数は年々増加しており、現在では30人に1人ほどの割合にのぼります。比較的症状が落ち着いている場合は、通院や在宅看護を受けながら自宅で療養しています。今回の授業では、精神疾患のある在宅療養者ならではの特徴、ケア内容を、具体例を交えて説明していただきました。また、2つの事例のロールプレイでは、療養者さんの状態の良いときと悪いとき、それぞれで注意しなければいけないポイントを教えていただきました。
講師の方のこれまでの経験にもとづいたお話を聞くことができ、在宅看護の現場の具体的なイメージを持つことができました。講師の方の、「自宅でその人らしい生活を送るサポートができる、大きなやりがいのある仕事です」という言葉が印象的でした。
3年前期「在宅看護援助論Ⅱ」
4年生になると、療養者が自宅等で看護を受けている在宅看護の現場へ出向いての実習を行います。その実習へ行く前に基礎的技術を高めておくための演習授業が「在宅看護援助論Ⅱ」です。療養者やその家族の心身の状況を客観的に評価する力や、生活支援・医療的ケアの技術を確実に身につけられるよう、授業にはグループワークやシミュレーション演習が取り入れられています。
本来ならクラス単位での授業で演習し力をつけていきますが、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、学生たちは時間帯を分けて小グルーブでの練習を重ね、技術力の向上を図っています。 写真は、先生に確認してもらいながら、グループで経鼻経管栄養カニューレ挿入・気管内吸引の練習を行っているところです。
根拠に基づいた正しい器具の扱い方を自分たちで考えながら進めます。これは胃に栄養を送るために鼻からチューブを通す練習のようすです。声掛け、あごの上げ下げのタイミングも重要です。
先生のアドバイスを受けながら気管内吸引の練習をしているところ。清潔を保って操作を進めなければならないので、チューブのどこを持つか、右手左手のどちらで持つかといったことにまで気を配ります。
練習を繰り返したのち、訪問看護実習を想定したロールプレイを行います。療養者ご本人と家族にどのように声掛けをすると良いのか、ロールプレイを見ていたほかの学生や、療養者役・訪問看護師役の先生からのアドバイスを受け、学んでいきます。
脳性まひのお子さんのいるご自宅での実習を想定。食事の際の療養児本人の自立と家族の負担軽減を目標に、療養児の食事のようすを観察し、補助具を紹介しています。
糖尿病の悪化で透析を始めて間もない療養者宅での実習を想定。皮膚にかゆみがあるため、爪でひっかいた傷が見られます。こうした傷からの感染を防止するため、療養者役の先生、夫役の学生に皮膚の保湿・正しい薬の塗り方を伝えています。
「在宅看護概論」「在宅看護援助論Ⅰ」「在宅看護援助論Ⅱ」の授業を通して理論と実践力を身につけ、学生たちは在宅看護の現場での実習に臨みます。大学卒業後も、看護師として日々進歩する医療現場に対応していくために、理論に基づいた実践を通して学んできたことが強みとなるでしょう。
この授業を担当している先生
健康科学部 看護学科
飯盛茂子先生
居宅で生活されている療養者と支える家族の方々の看護、災害対策を研究しています。総合病院・訪問看護・通所介護事業所での業務経験を生かし、授業ではさまざまな事例を提示します。また福祉関連の社会活動の経験から、生活における課題や家族支援についても紹介します。