噛むことで
脳と心と体を守る!
ー研究者紹介ー
健康科学部長(健康栄養学科・看護学科)・ 健康栄養学科長 久保 金弥 教授
専門分野
神経科学
研究テーマ
「咀嚼」により脳を守る、心を守る、からだを守ること
Q. 研究内容について教えてください。
1.噛むことにより脳を守る
歳を重ねるにつれ歯の数が少なくなり、うまく噛めない高齢者が増えています。また、我が国は超高齢社会に突入し、認知症を発症する高齢者が増え続けています。健康で楽しい老後を過ごすためには認知症予防に真剣に取り組む必要があります。我々の研究グループでは、歯の喪失が記憶の中枢である海馬の機能を障害して認知機能を障害すること、また噛むことで脳の活動が高まることを明らかにしてきました。現在も噛むことが脳機能に及ぼす影響をさらにくわしく調べています。
2.噛むことにより心を守る、からだを守る
現代社会は経済的に豊かになり、科学技術も進歩して便利になりましたが、管理・競争社会となったうえ高齢化に伴う多種多様なストレスにさらされるようになりました。ストレスは小さくても長く続くと精神疾患、胃潰瘍、がんなどの疾患を引き起こすことがわかっています。我々は噛むことでストレス反応が緩和され、精神障害やがんの増殖が抑制されることを明らかにしてきました。噛むことによるストレス抑制効果について研究を進めています。
Q. 研究を始めたきっかけを教えてください。
大学院在学中や大学院修了後、クリニックや総合病院で歯科医師として歯科治療を行っていた時期、患者さんが口から食事を摂れなくなると、表情が乏しくなったり、意欲が低下したりして元気がなくなる姿をみてきました。逆に、歯科治療を行い患者さんたちが口から食事が摂れるようになると、認知機能が改善したり、日常動作などの運動機能が高まったりと、元気になる症例を経験してきました。これらの経験を通して、口から食事を摂り、よく噛んで食べることが、食べ物を小さく粉砕して消化を助けるだけではなく、全身に何らかの影響を及ぼしているのではないかと考えるようになりました。口から食事を摂りよく噛むことが、認知機能などの脳の働きにどのような影響を及ぼすのかを明らかにしようと考え、大学で研究を始めました。研究を進める途中で、噛むことが脳だけではなく、全身にもよい影響を与えていることが明らかになり始めました。
Q. 研究が『未来にどう生かされてほしいか』を教えてください。
最近、う蝕(むし歯)の患者さんはかなり減少してきましたが、歯周病に罹患している患者さんはまだまだ多くみられます。「歯が少しぐらい無くても不便を感じないから」という理由などで、歯が抜けたままで放置している人や歯周病に罹っていても歯科治療を行っていない人が多く存在するのが現状です。よく噛むことで認知症予防につながることや噛むという極めて簡単な方法でストレスが緩和されるという我々のグループの研究成果は、日本のような超高齢・ストレス社会において朗報といえます。よく噛むことが健康維持に役立つという研究成果を社会に発信することで、お口を清潔に保ち、よく噛めるようにしようと思っていただける人々を増やしていきたいと考えています。また、それによって、認知症やストレス疾患に罹患する人が少しでも減少してくれればと期待しています。これからも自分の歯で楽しみながら食事をすることの大切さを社会に広めていきたいと考えています。
高校生へメッセージ
自分の歯やお口の状態だけではなく、家族の方々のお口の状態にも関心をもつようになって下さい。本学健康科学部や医療科学部で「口腔健康管理学」という科目を担当し、”噛むこと”の大切さを始めとして、”口腔と健康”の関係、口腔ケアについて講義しています。本学で学んで、”口腔と健康”の知識をもちそれを生かせる、管理栄養士、看護師、保健師、理学療法士、作業療法士として活躍しませんか?
プロフィール
健康科学部(健康栄養学科・看護学科) 久保 金弥 学部長
名古屋女子大学大学院生活学研究科長、健康科学部長、健康栄養学科長。
朝日大学歯学部卒業。歯科医師。岐阜大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。
大学院修了後歯科医師としてクリニックや総合病院で歯科臨床を経験。
朝日大学助手、講師、星城大学教授を経て2017年から名古屋女子大学教授。
著書に「噛むチカラでストレスに勝つ」など。