学部学科トピックス

2023.11.10
作業療法学科

【研究者紹介】「地域に在住する高齢女性の抑うつ状態の予防」 今井 あい子 講師

本学の教員が、研究者としてどのような研究をしているかインタビューした「研究紹介」シリーズ。今回は今井 あい子 講師です。

 

医療科学部 作業療法学科 今井 あい子 講師

専門分野
地域作業療法、介護予防

◆研究テーマ
地域に在住する高齢女性の抑うつ状態の予防




【動画】

Q 研究内容について教えてください

「抑うつ状態」とは、「気分の落ち込みと興味や喜びの減退」が認められる状態をいいます。
「抑うつ状態」は、「うつ病」の症状でもありますが、「うつ病」でない人にも認められます。この疾患に起因しない「抑うつ状態」を抱える高齢者は多く、加えて、高齢期の抑うつ状態は、慢性疾患の罹患リスクの増加、認知機能や日常生活自立度の低下、医療サービスの利用や医療費の増加にも関与し、高齢者個人と社会に悪影響を及ぼすことが分かっています。
高齢期に抑うつ状態が増える理由のひとつには、体力の衰え、配偶者や身近な人との死別など様々な喪失体験があるとされています。ただ、こうした体験は、避けたくても避けられないことです。先行研究では、高齢期の抑うつ状態の要因が様々に報告されており、近年では、身体活動の低下との関連が指摘されています。
しかし、身体活動といっても、どの程度の強度なのか、どんな種類なのかは明確になっていません。そのため、私の研究では、抑うつ状態になりやすいとされる女性に限定して、抑うつ状態の予防に有効な身体活動の強度や種類を明らかにするため2年間の観察研究を実施しました。
117名の女性を2年間調査した結果、「身体活動の強度と種類の組み合わせと、2年後の抑うつ状態との因果関係の分析」では、「非歩行性の低強度身体活動」から「2017年の抑うつ状態」にのみ有意な関係が認められました。
つまり、地域在住高齢女性の抑うつ状態の予防に有効な身体活動の種類と強度は、「非歩行性の低強度な身体活動」であることが分かりました。また、「非歩行性の低強度な身体活動」は、その特徴から、生活活動であることが推察され、家事や身の回りのことといった生活活動を増やすこと、もしくは減らさないことが、地域在住高齢女性の抑うつ状態の予防に有効である可能性が示唆されました。

 

Q その研究を始めたきっかけを教えてください

 子どもの頃、祖母と一緒に暮らしていて、かなりのおばあちゃん子でしたので、高齢者の方に幸せで長生きして欲しいという思いは常にありました。
作業療法士になって病院で働いていた頃、高齢者の場合、病前・受傷前の体力が高い方ほど経過が良いことを感じ、高齢者の健康づくりや介護予防に関心を持つようになりました。そこで、高齢者の健康づくりを専門とする大学院の指導教授の元で研究を学び始めました。
大学院では、様々な介護予防の取り組みに関わらせていただきましたが、そのなかで、健康な高齢者のなかにも抑うつ状態の方が多く存在することを学びました。
高齢期はライフステージとして、社会的な役割の減少や体力の衰え、友人や配偶者など身近な人々の喪失といった体験があり、気分的な落ち込みは簡単に避けられません。しかし、高齢者の抑うつ状態を予防・改善できるような介入可能な手段はないか考え、先行研究を調べているうちに身体活動という手段にたどり着き、現在の研究に至りました。

 

Q その研究が『未来にどう生かされてほしいか』教えてください

 「具体的にどのような活動をすれば、高齢期の抑うつ状態を避けられるのか、改善できるのか」がもっと明確になって、その知見が高齢者の皆さんの生活の仕方や、周囲からの支援方法に生かされればと思います。
また、今回の研究結果では限定的ですが、抑うつ状態の予防と役割の重要性も推察されました。
今後は、役割を含め、自分にとって大切な活動(作業)が、心身の健康にどう役立つか、リハビリテーションの枠組みを超え、健康づくりの観点から研究をしていきたいと思います。
その人にとって大切な活動の有用性を客観的に示すことで、「自分の大切な活動(作業)」の重要性が社会的に認識され,大切な活動(作業)を行うことが、誰にとっても当たり前の権利になったらと思います。

 

◆高校生へメッセージをお願いします

 大学時代は、いろいろなことにチャレンジできる期間です。
大学では、専門的なことを学ぶのみではなく、社会や生活の中にある問題を見つけ、その解決手段を探し、実際の行動に移すといったクリエイティブな活動をします。きっと皆さんにとって、楽しく充実した時間になると思いますし、皆さんの底力を高めてくれると思います。私自身も若い皆さんと一緒に試行錯誤することが楽しいです。
皆さんの柔軟な発想に期待しています。本学で一緒に楽しく学び合えたら嬉しい限りです。

 

プロフィール
医療科学部 作業療法学科 今井 あい子 講師
社会人経験を経て、作業療法士の養成校に入学しました。卒業後、リハビリテーション病院で勤務しながら名古屋市立大学大学院の修士課程を修了しました。
その後、教員となり今年で作業療法士になって16年目です。
3年前に立命館大学大学院で博士号(スポーツ健康科学)を取得しました。
自宅の猫と遊ぶこと、ヨガと登山が大切な活動(作業)です。