100分の栄養教室開催を疑似体験!
-栄養学実習-
9月号に引き続き、管理栄養士の仕事を疑似体験できる授業をご紹介します。
「健康日本21」という言葉を聞いたことがありますか? 政府が掲げる健康増進のスローガンです。「第二次健康日本21」の推進のため、健康増進を目的として、都道府県や市町村単位でさまざまな活動が行われています。その一環として市町村の保健センターなどで開催される「栄養教室」は、地域住民の自主的な健康増進への意識を高めるひとつの足がかりとなっています。
食物栄養学科(2019年健康科学部健康栄養学科へ改組)3年生の授業「栄養学実習」では、栄養教室開催の疑似体験を企画から発表まで行います。 この授業で、学生はどのように学び、何を感じるのでしょうか。
「栄養学実習」
学生が主体となって、対象者を設定した100分間の栄養教室を実施。
栄養学実習では、講義で習った知識について、実践を通じて学ぶことに重きをおいています。各ライフステージ別(乳児期、離乳期、幼児期、学童期、思春期、妊娠期、成人期、更年期、高齢期)の特徴ならびに問題点を復習した後、それらについて調理実習を中心に学んでいます。
この実習の特徴は、学生が主体となって栄養教室を行うことです。栄養教室は100分間で、「講義」と「調理実習」の二部構成で行います。栄養教室の内容について教員は極力指示せず、学生主体のアクティブラーニング形式で企画・実施しています。
学生はまず、対象者のライフステージを妊娠期、学童期、成人期、高齢期の4つから選びます。そして、企画の計画書作成から始まり、調理実習で使用する献立のレシピの作成、食材の発注まで学生自身が行います。「講義」では、栄養教室を通して指導する内容が参加者にわかりやすく伝わるよう、資料や説明ツールをパソコンで作ったり手作りしたりして、それぞれ対象者に合わせて工夫を凝らしています。
学生の声~栄養教室を疑似体験して~
家政学部 食物栄養学科 3年
辻田 莉那さん
この栄養学実習の授業を通して一番感じたのは、ただ「おいしい」「まずい」などの味だけではなく、対象者に合わせた見た目や味付け、量、料理形態が必要であることです。
私たちのグループの栄養教室は、対象者とするライフステージを「高齢期」としました。
高齢期に関する学習を進める中で、普段私たちが食べている食事と、あらかじめつぶしてから食材を調理した食事を比較しました。食材をつぶす作業はとても大変でした。食べ比べてみると、つぶしてから作った食事は、柔らかく舌でつぶせるようになっていて、噛む力や飲み込む力が弱い人にとっては食べやすいだろうと感じました。一方で、味については、「おいしい」とは感じられませんでした。
このことから、噛む力や飲み込む力が弱まる前の段階において管理栄養士として策を講じていく必要があると感じました。
高齢期の食行動の特徴として、これまでの各個人の食生活・食行動が長いため、「自分の決めた食生活・食行動があり、今から変えるのは難しい」という特徴があります。この特徴を踏まえたうえで、どうしたら低栄養予防の食事をしてもらえるかが私たちのグループの課題となりました。この課題に対し、これからの人生をどのように楽しみたいかを明らかにし、生活と食を関連づけることが、低栄養予防のモチベーションアップに繋がるのではないかと考えました。そこで栄養教室では、「高齢の方の楽しみランキング」を作成し、生活面における「楽しみ」を明示することにしました。「高齢の方の楽しみランキング」の提示により、生活と食の関連づけができた他に、参加者の中には笑顔にもなる方もいて、低栄養予防に関心を持って栄養教室に参加してもらえました。
このような経験を通し、管理栄養士として栄養教室参加者などの指導対象となる相手のことを考え、理解することがいかに大切なのかを学びました。
家政学部 食物栄養学科 3年
宮田 知佳さん
私たちのグループは、「学童期」に対する栄養教室を行い、対象者は子どものみという設定にし、食事よりもわかりやすい「おやつ」をメインに話を進めていきました。対象者を子どものみと設定したということで、様々な工夫をしました。栄養教室で使う説明資料には、資料をパソコンを使って映し出すのではなく、手書きの紙媒体を使用。理由は、手書きの紙媒体の方が、対象者とした子どもに親しみやすいと考えたからです。この他にも、20分間の説明を飽きずに聞いてもらえるよう、たくさんの説明資料を作成する、対象者が習っていない漢字は使わない、視覚的に可愛らしい資料にするなど様々な工夫をしました。また、説明をする時には、参加者に前に出てきてもらうことで、距離が近くなり、興味を持ってもらえると考えました。参加者とともに調理ができるおやつは、複数試作した中で、カロリーやおいしさ、使いやすさを考慮し決めました。
この栄養学実習の授業では半年間を通して、各ライフステージ別の食事について学び、盛り付けや食材の大きさ・形態を対象者ごとに適したものにすることが大切であると学びました。また、人それぞれにあった栄養素を適切な量摂取できるようにサポートする必要があることも分かりました。講師側としてだけでなく、他のグループの栄養教室で参加者側を体験したことで、対象者が本当に必要とする情報を提供する重要性を感じました。参加者にどのように伝えればわかりやすいのかを、さらに学んでいきたいと思います。
家政学部 食物栄養学科 3年
山田 晶子 さん
私たちが行った栄養教室の対象ライフステージは「成人期」で、特に、肥満が気になる30代女性を対象に設定。テーマは「めざせ健やか健康LIFE」としました。
栄養教室は「メタボリックシンドロームとはどのような状態のことなのか」から始まり、「改善するためにはどのような対策をすると良いのか」等についての講義を行いました。改善策紹介の中の「運動」については、講義だけではなく、実際に参加と一緒に運動を行いました。こうすることにより、説明だけでは分からなかったことも理解してもらうことができ、また初対面の人と距離を縮める機会にもなって、やって良かったです。
一方で、反省点もあります。「初めに参加者にメタボリックシンドロームに対する危機感を持ってもらうこと」を目標としていましたが、十分に達成できませんでした。具体的に何が危険なのかという説明が不足していたからだと思います。改善策としては、「メタボリックシンドロームになると、どのような危険があるのか、具体的に分かりやすく説明を加えること」、「メタボリックシンドローム危険度チェックで、チェック数により危険度の段階を設けて表すこと」の二点を考えました。
この授業で栄養教室を疑似体験した中で一番学んだことは、教える側が態度一つ一つに思いやりを持って相手に接することが重要であることです。
私たちは栄養教室の最後の質疑応答の時間に出た質問に対して、適切な回答が分からずグループ全員がその場で悩んでしまうことがありました。講師側のこの行動が参加者に不安を与えてしまうと、指摘により分かりました。伝える立場のあり方や、相手に対する思いやりある態度、信用してもらう行動等さまざまなことを学んだ授業でした。